21世紀のコミック作家の会

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児童ポルノ禁止法改定案に対する反対声明
 21世紀のコミック作家の会は、自由民主党・公明党・日本維新の会が平成25年5月29日、衆議院に提出した「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の改定案に対し、反対することをここに表明します。

 改定案の問題点は多々ありますが、わたしたちが特に強く反対するのは、現行法では規制の対象となっていない漫画・アニメーションについて、政府が「児童の権利を侵害する行為との関連性」について調査研究し、改定案の施行後3年を目途として、研究結果に基づく必要措置を取ることを定めた附則2条です。現行法の「児童ポルノ」の定義が極めて曖昧なことと相まって、自由な発想・表現の下に創作活動を展開する漫画家の自由を奪うとともに、すぐれた漫画を読む国民の権利を奪うことになる危険性があるからです。

 ところで、わたしたちは、性的な虐待から児童を守るという児童ポルノ禁止法の趣旨自体には諸手を挙げて賛成します。実在の児童を対象とした写真や映像等については、現実の被害者が存在するのであり、そのような被害者を出さないための措置が取られることは当然のことだからです。
 しかしながら、改定案が標的にしようとしている漫画・アニメでは、実在の児童が被害者になることはありません。
 また、改定案を提出した国会議員は、漫画・アニメが、児童に対する性的な虐待を引き起こす引き金になりうると考えているようですが、そのような事実を示す客観的データは一切ありませんし、「引き金」までを規制の対象にするのであれば、規制対象は無限に広がってしまうのではないでしょうか。

 更に、漫画・アニメでは、対象をデフォルメしたり、大人なのか子どもなのか判然としないキャラクターを登場させたりすることがありますが、仮に、漫画・アニメが児童ポルノ禁止法の規制対象となった場合、描かれた対象が「児童」であるかどうかは、どのように判断されるのでしょうか?

 曖昧な判断基準は、個々の作家にこのような漫画のテクニックを使用することを躊躇させ、表現を自粛させてしまう可能性があります。その結果、自由な発想・表現の下に成長を遂げ、「クール・ジャパン」として海外でも日本文化の柱と認知されるまでに至った漫画文化が、衰退してしまう危険性があります。すぐれた漫画は、多種多様の表現領域、表現方法を前提とした多数の作品が創作される中から生まれてくるのであり、公権力が表現形態を選別するという状況下では、読者からの支持を得られない「面白くない」漫画ばかりが量産される可能性があります。

 わたしたちの主張に対しては、「附則2条は、漫画・アニメを規制対象と決めたものではない。その調査研究をするだけだ」との反論があるかもしれません。
 しかしながら、附則は、調査研究が始まっていない現段階で、3年を目途に研究の調査結果に基づく必要措置を講じることを予め定めており、わたしたちは、結論ありきの調査研究が行われるのではないか、恣意的な立場から調査結果が利用されるのではないか、という危惧を抱いています。

 日本では、子どもから大人まで幅広い読者が漫画を愛好しています。漫画は国民的な基盤を有する文化なのです。
 しかしながら、今回の改定案が成立すると、漫画の多様な表現方法が封じられてしまい、世界に冠たる日本の漫画文化が衰退してしまうことは必至です。
 改定案は、漫画家が漫画を描く自由、及び、大多数の国民が「素晴らしい」漫画を読む自由を奪うものであり、断じて容認できるものではありません。


平成25年6月18日

21世紀のコミック作家の会
理事	さいとう・たかを
同	藤子不二雄(A)
同	弘兼憲史
同	やまさき十三
同	秋本 治